空が碧い。
飛行機雲がぐんと伸びて、ぴーかんの空を描いている。
あたしはそれを眺めながら、深く息をついた。

負けちゃった、な。
高校１年になって初めての試合。
３年の先輩にとっては最後の試合。
期待して、出してくれたのに、結局力になれなかった。
みんなはなぎさは精一杯やったって言ってくれたけど、あたしの中では納得出来てなくて、ふつふつとこみあげてくるものがある。
やば…。
目頭が熱い。
でも、泣いてたまるものか、と空を仰いで必死に格闘する。
そこにじゃり…と人の気配が現れた。
反射的に振り返ると、そこには想像もしなかった人物がいた。
「藤Ｐ先輩…。」
「…やぁ、ここにいたんだ。」
にこりと微笑み、あたしの横に並ぶ。
なんで先輩が…。
あまり見られたくない現場を抑えられ、内心慌てまくった。しかも肩が触れ合う距離で立たれて、空気に溶け込んでいる。
静かに佇む。
何をしにきたのか、疑問は浮かぶけれど相手が口を開かないため話しかけれない。
あたしは再び背を壁に預け、空を仰いだ。
「……今日は残念だったね。」
ふいに切られた口火は、あたしを労うもの。
「…観て、くれてたんですか？」
「うん。ほのか達と一緒にね。」
あぁあたしってば格好悪いとこしか彼に見せれてないな、と苦笑が浮かぶ。
「すいません、折角来てくださったのに、いいとこ見せれなくて。」
あたしの言葉に先輩は視線をあたしに合わせて答えた。
「いや、美墨さんは…格好良いよ。負ける時もあるからね、それは残念だったけど。」
相変わらず優しい。…チームメイトも。いっそ詰ってくれた方が気が楽なのに。
小さく礼を言ってあたしは地面に視線を向けた。彼の暖かさが涙腺を再び弱くする。
泣いちゃ、ダメだ。
必死で堪える。
そうしてると、くしゃりと頭を撫でられた。
「……我慢、しなくても良いよ…？」
温かい掌が、指が、あたしの髪を梳き、滑り落ちる。
「泣きたい時は吐き出した方がいい。次に力を注げるように。」
彼の言葉が躯に染みる。
彼もスポーツマンで、こういうことは幾度も経験したはずで。
発せられる言葉はどれも重みのあるもの。
それが、あたしの胸を揺さぶった。
ぽろりと涙が落ちる。
一度流れたら、どんどん溢れ出て止まらない。
声を押し殺し、沸き上がる感情を押さえ込む。
すると、逞しい腕の中に閉じ込められた。
「我慢しないで。…オレがいるから。」
ただの後輩には過ぎたコトバ。
あたしは堰を切ったように声を出した。

しばらくし、感情も落ち着いてくると、今度は顔を上げられなくなった。
温かい胸に額を押し付けられ、抱きしめられている体勢に赤面する。
おかげですっかり吐き出せたけど、動けない。
泣き声が治まったからだろう、先輩が腕を緩め、顔を覗き込んできた。
「……落ち着いた？」
ありえない至近距離に動揺し、体を離した。
「はいぃぃぃ、落ち着きました！」
「ははは、いつもの美墨さんだ。」
朗らかに笑う彼に目を奪われる。
心配して来てくれたことに喜ぶ自分と調子のっちゃダメだという自分が頭の中でせめぎあう。
先輩は優しいから、あたしを心配してくれただけよね。きっと他意はない…。
自分で結論付けて落ち込んだ。
「美墨さん、明日暇？」
突然かけられた言葉にあたしは素直に応える。
「はい、明日は試合明けなんで何も…。」
無意識に応えた言葉に彼はにっこりと笑った。
「そう、じゃあさ一緒に遊ばない？遊園地にでも行って叫んだらスッキリするよ？」
「へ…？」
いきなりなお誘いに思考回路が停止した。
「いや、でも、明日はほのか用事あるって言ってたと思いますし…。」
「オレと二人だけじゃダメ？」
「ふたり…きり…？」
あたしと先輩が二人っきりで遊園地？
それって…デートみたい…。
考えはじめると頭からどんどん蒸気がでてきて暑い。
「美墨さん…ダメかな？」
そんなふうに言われたら困る。
恥ずかしすぎて、きっと真っ赤になってるだろう。
「…ダメじゃない…です。」
「よかった。」
ふわりと微笑んだ表情が、あまりに可愛くてあたしの頭はオーナーヒートした。
なにこれ？
どういう展開？
地獄からいきなり天国にかっ飛ばされたみたいで動けない。
あたしは突然落とされた爆弾に戸惑うばかりだった。


fin.


マンガ書く用のSSです。
上手く出来たら続くかも～です。

[9回]