お付き合いを始めて約一年。とても夢心地の日々だった。
もうすぐ最上級生の夏休み。ほんの少し、のんびりできる期間。
秋になると受験が始まり、大学が決まるまでひたすら勉強の日々となる。
爽子が決めた教員になりたいという夢を叶えるために、もう、恋愛にばかり気を取られるわけにはいかなくなった。
そう思うと、今の時間を精一杯楽しもうと、頭上を仰ぐ。
ビーズをひっくり返したような、小さな星の瞬きが降り注ぐ。
隣にいる愛しい人の体温が感じられて、とても幻想的でロマンチックな一時だ。
「ほんと、もうすぐだね、七夕…。」
風早の志望は聞いていない。聞きたいが、少し怖い。
進学先が違うから、離れ離れになるなんて話、友達でも恋人でもありきたりだから。
それに、そこまで踏み込むことにも躊躇を覚えた。
恋人同士となってほぼ一年。
高校に入ってずいぶん人と接するようになったが、未だに器用に立ち回ることはできない。
「今年は会えるかな？織り姫様と彦星様。」
一年に一度の逢瀬。叶うことなら出会って欲しいと思うが、こればかりは神様次第。
「うーん、でも予報は雨、だったよなぁ。」
「え！？ホントに？」
彼の一言にちょっとした衝撃を受けて、爽子は風早に振り返った。長い黒髪がざあと広がる。
「…。」
そんな爽子を見て、柔らかく微笑むと、彼は口を開いた。
「てるてる坊主、つくろっか！」
こくこくと頷き、視線を伏せる。
毎度のことながら、あまりにも眩しい笑顔を直視できなかった。真っ赤になった頬を顔を伏せて隠す。
すると風早は爽子の手をとり、歩みを促した。
「行こ！」
満面の笑顔につられて、爽子も緩く口角を上げる。あまりにも艶やかな微笑みに、目を奪われた風早は歩みを止めた。
気を取り直して、爽子の横に並んで静かに足を進める。
彦星も織り姫と逢瀬を楽しめるようにと願いながら。



fin.



いまいち尻切れトンボ。
書きはじめたのは七夕前なのに、UPは今日ってこれ如何に？！

「新しい学校、どうだったの？」
お母さんにそう聞かれて、私はある日のワンシーンを思い出して答えた。
「うん…ちょっと楽しくなりそうかな…。」
頭に浮かんだのは、優しい男の子との出会い。
初めて『ありがとう』とお礼を言われた日のこと。
そして、一緒のクラスになって、挨拶を交わしてくれること。
なんだか今までの人生を思い返して、一番いいクラスになったみたい、と思ってしまう。
なにより、風早君と一緒にいると、なんだか、とくん、とくんって鼓動が鳴る。
本当にいい人。
こんなにいっぱい嬉しかったの初めて。
それを思い出すと、自然と顔が綻んだ。
「…うん、楽しそうだね。よかったね。」
お母さんはにっこりと笑った。

ちょっと高望みしすぎかもしれないけど、高校では少し話せるかな、霊感あるっていう誤解も解けるかな、それに、みんなの役に立てるかな…。
ちょっと希望が湧いた。

物心ついて以来、初めての高望み。

fin.